1.自律神経機能の低下は高血圧や心疾患、肥満、糖尿病など循環器・代謝疾患のリスク因子であり、複数の遺伝要因や環境要因が関与していると考えられるが、そのほとんどは不明である。これらの関連性を明らかにすることは、遺伝背景を考慮した効果的な関連疾患の個別化予防の発展に貢献するものと思われる。本研究では若年者の自律神経活動の低下に関連する遺伝因子・環境因子の検出を目的とする。 2.若年健常者(大学生)を昨年度の約100名に加えて35名をリクルートした(本学の倫理委員会の承認の下、文書と口頭による十分な説明の後、自由意志に基づく文書による同意を得ている)。身長や体重など基礎的な身体測定の後、自律神経機能(心拍変動解析)、胃運動機能(胃電図)、末梢血管機能(手掌の冷水負荷試験)を測定した。さらに食習慣や生活習慣を食物摂取頻度調査票および生活習慣調査票により調査した。 3.エストロゲン受容体のPvuIIおよびXbaI遺伝子多型との関連解析の結果、PvuII Cアリル保有者で血圧が高値を示し、XbaI AA保有者では体重が高値であった。さらに両多型のハプロタイプ解析の結果、PvuII C-XbaI Aハプロタイプ保有者では、非保有者に比べて血圧が高値であり、自律神経活動が低値を示した。両多型のハプロタイプが潜在的な自律神経機能の低下に関与している可能性が示唆された。 4.グレリンLeu72Met多型との関連解析の結果、Met保有者では摂食量(エネルギー摂取量)が増加しており、胃電気活動(中心周波数、正常波パワー比率)も高値を示した。体重やBMIに差は見られなかったが、加齢等の要因が加わった時に、本多型が体重増加のリスク要因となる可能性が考えられた。 5.本研究により、エストロゲン受容体の遺伝子多型(ハプロタイプ)が自律神経活動の低下に関連することが初めて示された。また、グレリンLeu72Met多型と摂食量や胃運動機能との有意な関連も初めての知見であった。これらの研究成果は、関連疾患の遺伝要因の理解において重要な知見になるものと思われる。
|