研究概要 |
本課題の目的は,生体影響の少ないヒューマン・インターフェースの開発を通じて,実環境指向の複合現実感(MR)技術を利用した安全な情報提示方法の可能性を広げることである.これまでに,具体的な応用環境として,自動車運転支援向けの映像重畳装置(MRディスプレイ)の生体影響評価を行ってきた.本研究では,これまでの研究成果を連続的に発展させる形で,MRディスプレイのもつ機能をさらに充実させ,身体への親和性という観点からユーザへの支援情報提示法の可能性を拡充することを検討する. 本年度は主に,より幅広い情報提示を実現するための新しいMRディスプレイの設計とその構築を行った.具体的には,(1)視野角の拡大,(2)解像度のアップ,(3)位置決め精度の向上,(4)カラー化などに着手した.このMRディスプレイを利用することにより,重畳映像の質的な向上だけでなく,人間の環境認知において重要な周辺視野への視覚情報支援も可能になった.また,それと並行して,従来の車載用MRディスプレイを利用して,振動環境下におけるMR映像刺激の慣れや音刺激を利用したMR酔いの低減について検討した.その結果,10分間のMR映像刺激による生じる平衡機能の不安定化の影響は繰り返し行うことにより改善されるといった慣れの効果は生じにくいことや,56dB(A)や90dB(A)のホワイトノイズをMR映像刺激直後に提示することにより不安定化した平衡機能が回復されるといったMR酔い軽減策としての聴覚刺激の有用性が示唆された.さらに,MRディスプレイによる作業支援は多様な可能性を備えることから,健常成人だけでなく高齢者や脳卒中などにより身体機能の衰えた人たちを含めて評価をする必要性がある.そのため,身体機能の複雑さに対して柔軟に対応できる計測システムの開発が必要となった.そこで,この新しいMRディスプレイには,MR映像遅延時間を自在に制御できる機能を搭載し,多様な身体機能のユーザに対しても簡便に計測できるベクション刺激による運動残効を利用した生体影響評価指標を新たに開発した. 以上より,幅広いユーザ層に対して実世界を意識したMRの生体影響評価を定量的かつ総合的に実施できる新しい実験システムを構築することができた.
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