研究概要 |
本課題の目的は,生体影響の少ないヒューマンインタフェースの開発を通じて,実環境指向の複合現実感(MR)技術を利用した安全なMR情報提示方法の可能性を広げることである.本研究では,具体的な応用環境として,自動車運転支援向けの映像重畳装置(MRディスプレイ)の生体影響評価を取り上げ,身体への親和性という観点からユーザへの支援情報提示法の可能性を拡充することを検討する. 最終年度は,初年度に開発した,幅広いユーザ層に対して実世界を意識したMRの生体影響評価を定量的かつ総合的に実施できる広視野MRディスプレイを搭載した新しい実験システムを駆使し,主に,I)虚像の映像遅延,II)虚像の映像表示画角の観点から,ユーザへのMR情報提示をどの程度まで安全に広げることができるかを推定する試みを具体的に実施した.運転環境を想定した身体加振周波数帯域(0.1から2.0Hz)の振動条件下における10分間の2Dドライビングシミュレータの後に生体影響評価を行った.いくつかの映像遅延条件を用いた実験の結果,実像に対する虚像の映像提示遅延時間が増大するほど,特に1.0から0.4Hzより低周波な加振領域において,自律神経系の呼吸ピーク周波数が上昇し,また,平衡機能系の重心動揺量(COPの軌跡長)が増大するという加振周波数に依存した傾向が一部に示された.一方,虚像の提示視野角の拡大によっては,17.6×6.2degから18.2×13.6degの映像範囲においては生体影響の程度を著しく増大させるという程度には至らなかった. 以上より,特に低周波な振動条件下においてMRディスプレイの使用が想定される場合には,映像遅延条件を適切に設定した機器設計を行うことにより,これまで問題としてきた揺れや振動のある実環境での使用において生じる違和感や生体影響などを惹起させにくい,身体への親和性の高く実用場面に無理なく浸透するMR機器を具体的に実現化させる指針を示すことができた.
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