研究概要 |
(研究目的) 本研究では,歩行中にみられる上・下肢の協調運動の制御機構を解明することを目的とした.特に,上肢と下肢の協調関係が脊髄反射を中心とした制御機構によりどの程度無意識に(反射性に)調節されているのか,また,脳を中心とした意識的な制御がどのように遂行されているのか,について重点的に検討を加えた. (研究方法) 脳部位の興奮性の評価には、経頭蓋的磁気刺激により筋電図上から記録される運動誘発電位を用いた.また脊髄反射の評価には、電気刺激後筋電図から誘発されるH反射を用いた.運動モデルには、固定式自転車エルゴメーターを用いた.これは、ペダリング運動は歩行運動類似した神経機構を有すること、ペダリング運動は手や足をペダルに固定するため、運動の定量化が容易であること、などの理由に基づく.また、これまで上肢と下肢の協調動態に関する研究では、上肢と下肢を同時にかつ律動的に動かす運動モデルが採用されてきた.しかしながら、この方法では下肢に生じた変化が上肢と下肢どちらの動きに起因するものなのかが分離できなかった.この問題を解決するために、本研究では下肢(上肢)は静的な状態を保ち、上肢(下肢)のみのペダリング運動遂行中に、静的な筋の筋電図上から運動誘発電位およびH反射を記録した. (研究成果) 上肢ペダリング運動中には、下肢筋から得られた運動誘発電位が増大し、H反射が減少することが明らかとなり、上肢ペダリング運動は下肢筋を支配する脳領域を興奮させるが、下肢筋を制御する脊髄レベルを抑制させることが示唆された.また、下肢ペダリング運動においても同様に、上肢筋を支配する脳部位と脊髄領域に対して、異なる効果をもたらすことが明らかになった.得られた成果の一部は、2007年11月にアメリカ・サンディエゴで開催された北米神経科学大会で発表した.
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