研究概要 |
【研究目的】 前年度までに,脊髄反射を中心とした無意識的な上肢と下肢の協調関係と,脳を中心とした意識的なそれらの関係について研究を進めてきた.その結果,律動的な上肢(下肢)の運動は,下肢(上肢)を制御する脳部位に対しては促通性に,下肢(上肢)を制御する脊髄レベルへは抑制性の効果を及ぼすことが明らかとなった.そこで本年度は,上肢と下肢の協調関係が,上肢や下肢を動かす速度に依存して変動するのか否かについて研究を行った. 【研究方法】 研究方法は昨年度と同様のものを用いた.脳部位の興奮性の評価には,経頭蓋的磁気刺激により筋電図上から記録される運動誘発電位を用いた.また脊髄反射の評価には,電気刺激後筋電図から誘発されるH反射を用いた.運動モデルには,固定式自転車エルゴメーターを用いた.本研究では下肢(上肢)は静的な状態を保ち,上肢(下肢)のみのペダリング運動遂行中に,静的な筋の筋電図上から運動誘発電位およびH反射を記録した.ペダリング運動を遂行する速度は15,30,45,60rpm(rpm:1秒間の回転数)とした. 【研究成果】 上肢ペダリング運動中には,下肢筋から得られた運動誘発電位が増大し,H反射が減少することが明らかとなり,上肢ペダリング運動は下肢筋を支配する脳領域を興奮させるが,下肢筋を制御する脊髄レベルを抑制させることが示唆された.さらに,これらの興奮・抑制効果は,上肢ペダリング運動の速度を早くするほど大きくなった.また,下肢ペダリング運動においても上肢筋を支配する脳部位と脊髄領域に対して同様の結果が得られた.得られた成果の一部は,アメリカワシントンD.C.で開催された北米神経科学会で発表した.また,成果の一部は,「体力科学」誌に掲載された.
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