エジプト、アラブ・共和国、首都カイロから約600キロ南に位置するルクソールのナイル川の東岸と西岸の遺跡群は、1979年の第3回世界遺産委員会ルクソール会議において、「古代テーベとそのネクロポリス」としてユネスコ世界遺産リストに登録された。この遺跡群は、エジプト文明最盛期の繁栄を証明する文化遺産としてその普遍的価値が認められ、とりわけ、同地域に残された古代エジプト中王国時代からコプト時代にかけての岩窟墓や神殿の壁画の美術的価値が評価されている。しかしながら、世界有数の観光地としての近年の観光客の増加に伴う遺跡劣化、都市の開発に伴う遺跡破壊や遺跡景観の変化など、この地でも様々な遺跡保存問題が表面化してきている。様々な遺跡保存問題がある中で、とりわけ、2007年以降、大きな問題となっているのが、ナイル川西岸のテーベ・ネクロポリスの岩窟墓群の上に古くから暮らしてきたクルナ村の住人の移住の問題である。2006年末からは、ブルドーザーによる住宅の取り壊しという大規模な撤去作業がおこなわれ、多くの住人が「ニュークルナ村」へ移住し、遺跡を取り巻く環境が著しく変化している。こうした状況を受けて、住居の取り壊しに伴う遺跡の現状を調査するため、2007年12月から2008年1月にかけて以下の項目で現地において緊急調査を実施した。(1)住宅の取り壊し状況と遺跡への影響の確認と記録のための調査、(2)「遺跡の将来に影響を及ぼす要素(リスクファクター)」を抽出、分類、定義するための調査、(3)岩窟墓における「遺跡の将来に影響を及ぼす要素(リスクファクター)」の危険度の調査、(4)ステイクホルダ(利害関係者)調査。 2008年度も調査を継続し、保存管理計画作成のための基礎データとしたい。
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