エジプト・アラブ共和国、のルクソール西岸に位置する遺跡群は、「古代テーべとそのネクロポリス」の一部として世界遺産リストにも登録され、エジプト文明最盛期の繁栄を証明するものとして顕著で普遍的な価値が認められ、特に同地域に残された岩窟墓分の壁画の美術的価値が評価されている。しかしながら、近年の観光客の増加、都市開発による影響など遺跡保存上の問題が表面化してきている。さまざまな問題がある中で、とりわけ大きな問題となっているのが、岩窟墓群の上に古くから暮らしてきたクルナ村の住人の移住と民家取り壊しの問題である。民家の取り壊しにより遺跡を取り巻く環境は著しく変化しており、これらの岩窟墓群の保存状態を把握するため調査を継続した。昨年度は、テーベ・ネクロポリスの11のエリアのうち「アル・コーカ地区」「シェイク・アブド・アル=クルナ地区」「アサシーフ地区」について昨年度は調査を実施したので、今年度は、「ドゥラ・アブ=ナーガ地区」「クルナット・ムライ地区」を中心にその状況の緊急調査を実施した。 また、将来的な保存管理計画作成の基礎データとするため、「アル=コーカ地区」の岩窟墓内部および外部の計5地点で、1年間の自動計測をおこない、年間の温湿度変化のデータを取得した。国内では、現地で収集したデータに基づき、遺跡に将来を及ぼす要素の検討を継続し、ウェブ上での調査・研究成果の公開および情報発信に向けた作業を開始した。
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