膵導管細胞に発現するイオンチャネルCFTR (Cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)の遺伝子発現調節とアルコール性慢性膵炎との関連を明らかにするため、慢性膵炎患者88人(アルコール性65人、特発性23人)、健常人118人を対象に、CFTR遺伝子のプロモーター領域(翻訳領域の上流約2kb)の解析を行った。その結果、-1523に位置する塩基グアニン(g)がアデニン(a)に変異した-1523g/aは患者群にのみ1例(アレル頻度0.Ol)、-895に位置する塩基チミン(t)がグアニン(g)に変異した多型-895t/gは患者群で87例(アレル頻度0.49)、健常群で109例(アレル頻度0.46)、-790に位置する塩基チミン(t)が欠損した変異-790△tは患者群にのみ3例(アレル頻度0.02)、125に位置する塩基グアニン(g)がシトシン(c)に変異した多型125g/cは患者群でホモ接合対の1例を含む13例(アレル頻度0.07)、健常群で13例(アレル頻度0.06)であった。 この中で-790△tは3例ともアルコール性慢性膵炎患者群に見つかったため、疾患に関連する可能性があると考え、付近の塩基配列をTFSEARCHを用いて解析した。その結果、-790付近は転写調節因子FOXD3 (HFH-2)の結合配列モチーフGATTTTTTTTTCを持つことがわかった。FOXD3は細胞の分化に関わる転写因子で膵臓に発現が認められている。 CFTRの変異が関連する疾患は慢性膵炎のほか先天性両側完全精管欠損症、気管支拡張症、鼻ポリープなど多種の器官に及ぶ。しかし、疾患感受性の臓器特異性は未だ不明である。これはゲノム遺伝子と各臓器に特異的に発現している転写因子との相互作用に因る可能性が大きい。今後この分野の研究はますます重要になると考えられる。
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