研究概要 |
【目的】血圧や心拍数を代表とする循環動態を制御する多くの仕組みが知られているが、自律神経がその主役であることは言うまでもない。さらに、急性心筋梗塞後の心不全をはじめとする病態時においても、交感神経活動の異常興奮によって、病態が悪化することが知られている。近年、心筋梗塞巣と心筋の熱ショックタンパク(HSP)の関与が報告されているが、虚血性心疾患から心不全に至るまでの期間における自律神経とHSPについては、全く解明されていない。そこで本研究では、心不全発症初期に焦点を当てて、虚血性心疾患から心不全に至る移行期間における自律神経とHSPの関与を明らかにする。 【方法・結果】ハロセン麻酔下の雄性Sprague-Dawleyラット(10週齢)を用い、血圧、心拍数ならびに心電図を記録した。左第3肋間より開胸し、結紮用のナイロン糸を左冠動脈周囲に準備した。任意に交感神経を調節する為に大動脈減圧神経を単離・同定し、20Hzの周波数で予備刺激を行い、30秒後に体血圧が約40mmHg低下するように刺激電圧を調整した(0.96±0.1V)。左冠動脈を閉塞して急性心筋梗塞を作成し、大動脈減圧神経を冠動脈閉塞2分後から30分間電気刺激(20Hz,1msec)した群と非刺激群とで60分までの生存率を比較した。大動脈減圧神経を刺激せず、自律神経の調節をしない群は、冠動脈閉塞直後から死亡数が増え、冠動脈閉塞後60分での生存率はわずか5.2%だった。一方、大動脈減圧神経を電気刺激した群は、20分以降の死亡が抑制され、閉塞後60分の生存率は63.6%に改善した(p<0.01)。94.1%のラットが致死性不整脈による死亡であったが、刺激治療群では40%程度の死亡までに抑えられた。 【考察】本年度の研究では、急性心筋梗塞後の自律神経活動を是正すると、致死性不整脈の抑制による救命率が改善される可能性を示唆された。今後の課題は、自律神経活動の変化と熱ショックタンパクの係わり合いを心筋の細胞-細胞コミュニケーションの概念から検討する必要があると考えられる。
|