研究概要 |
【目的】生体の循環調節では、時々刻々と変化する生体の内外の環境変化や種々めストレスに対して恒常性を維持するために、複雑かつ巧妙な調節が行われている。交感・副交感神経からなる自律神経、特に交感神経による調節は、この循環調節機構において中心的な働きを担うものであり、瞬時瞬時にダイナミックな制御をなし得るという点は、局所性や内分泌性などの他の調節系にはなしえない本調節系の特徴といえる。さらに、急性心筋梗塞(AMI)後の心不全をはじめとする病態時においても、交感神経活動の異常興奮によって、病態が悪化することが知られている。そこで本研究では、心不全発症初期に焦点を当てて、虚血性心疾患から心不全に至る移行期間における自律神経とHSPの関与を明らかにする。 【方法・結果】ハロセン麻酔下の迷走神経切除を施した雄性SDラット(10週齢)を用い、血圧、心拍数ならびに心電図を記録した。左第3肋間より開胸し、結紮用のナイロン糸を左冠動脈周囲に準備した。任意に交感神経を調節する為に大動脈減圧神経を単離・同定し、20Hzの周波数で予備刺激を行い、30秒後に体血圧が約40mmHg低下するように刺激電圧を調整した(0.96±0.1V)。左冠動脈を閉塞してAMIを作成し、大動脈減圧神経を冠動脈閉塞2分後から30分間電気刺激(10Hz,1 msec)した。昨年度に報告した大動脈減圧神経の刺激(10Hz,1 msec)で迷走神経Intactである群とで60分までの生存率を比較した。その結果、両頸部迷走神経切除により10HzのADN電気刺激によるAMI後の生存率の改善が30.0%(3/10)に抑制された。 【考察】既に著者は、AMI後の自律神経活動を是正すると、AMI後の生存率が改善することを報告した。本年度の研究では、ADNの電気刺激による自律神経活動の是正によってAMI後の生存率が改善するが、その生存率の改善は、一部迷走神経の興奮によるものと考えられた。
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