研究概要 |
本研究の目的は,吃音の原因のひとつと考えられる聴覚フィードバック機構の障害を,医工学的検査や神経科学的な手法に基づいて定量的に評価し,吃音者における非流暢性の神経基盤を明らかにすることである.非吃音者においては発話の非流暢性を引き起こし,吃音者においてはむしろ治療効果を示す遅延聴覚性フィードバックを用いて発声の非流暢性を定量的に分析した.平成20年度においては主に非吃音者の聴覚発話システムを定量的に分析した.また,遅延聴覚フィードバックの代わりに一度録音した音声を用いる(非同期聴覚フィードバック)ことにより,聴覚フィードバックに対する発話の効果の会ループ特性を同定した.実験により示唆された結果は以下の2点である.(1)遅延聴覚フィードバックによって発声音長が延長し,その延長効果に男女差がある(2)非同期聴覚フィードバックを用いることにより,発話が自動的に聴覚フィードバックに対し同期する「引き込み現象」が観測された.(1)の結果は聴覚フィードバックに対する感受性が男女で異なる可能性を示しており,同様に男女差のある吃音の罹患率との関係があるかもしれない.また(2)の結果は聴覚フィードバックが発声の流暢性,非流暢性に重要な役割を果たしていることを示しており,吃音者の非流暢性の神経基盤を調べる上で非常に重要な基礎的知見である.また本研究の結果は,今後の吃音リハビリテーションに対して有用な情報を提供し,科学的な根拠に基づく吃音リハビリテーションの発展に貢献するのみでなく,これまで健常者だけでは不明瞭であった聴覚・発話相互作用の神経基盤解明につながるものである.
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