これまでほとんど開発されていないミトコンドリアに特異的に有効な抗酸化剤の実用化という本研究の目的ベースとして、初年度にまず、その粗抽出液が強い抗酸化活性を示した植物Trichilia cuneataを本研究のターゲットとし、これまで行ってきた成分検索をさらに推進した。その結果、これまで見出していた強い抗酸化作用を示す新規化合物類をはじめとした、計12種類の化合物の単離同定に成功し、そのラインナップを逹成することができた。しかもこのうち3種は、これまでその構造が見出されていない新規化合物であった。 次いで、これら12種の化合物について、ミトコンドリア及び一般的な生体膜の指標としてのミクロソーム膜に対する抗酸化活性をスクリーニングした結果、2つの新規化合物にミトコンドリアのみに特異的な抗酸化性を見出すことができた。 このうち一方の新規化合物については、不安定な置換基を有しており、抗酸化剤の実用化という観点からは若干不利な要因と判断した。従って第二段階として、もう一方の高活性を示し、かつ、安定な構造の新規化合物をターゲットとし、立体構造確認と量的確保め目的のための不斉全合成に取りかかったところである。 一方で、ミトコンドリア膜に代表される生体膜の膜過酸化現象をテーマとする本研究は、細胞レベルでの老化現象との関連なしには考察しえない分野である。その意味で、一個体としての細胞のダイナミクスの中において、細胞遺伝子との関連、相互作用の可能性も考慮に入れる必要がある。そこで今回単離同定した12種類の化合物について、遺伝子レベルに関連した、より広い意味での抗酸化活性発現機構についての検討、スクリーニングにも着手したところである。
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