オーストラリアは1990年以降労使関係の劇的な変化を経験した。それまで産業別労働組合を主体とした全国レベルでの労使交渉から、エンタープライズバーゲニング(企業別の交渉)へと交渉形態が変化をした。このような変化は、オーストラリアの主要産業である石炭産業にて特に強く感じられた。私は、この労使関係の変化がどのように生産性に影響を与えるのかを石炭産業のデータを使い推定をした。このような労使関係の変化は、石炭産業においては、仕事の組織のされ方をよりフレキシブルにし、仕事の組織の変化をとおして生産性に影響を与えた。私の最初の論文は、仕事の組織の変化の中で、最も重要な変化の一つであったマルチタスク組織への移行がどの程度生産性に影響を与えたのかを実証している。以下が、その論文の要約になる。 1990年以降、オーストラリアの石炭産業は、(I)プロダクション系とメンテナンス系の間の仕事上の垣根、(II)プロダクション系内部での仕事の垣根という、二つのタイプの仕事上の垣根(デマーケーション)を取り除き、マルチタスク組織へと変貌を遂げた。この論文は、1985年から2005年までをカバーするオリジナルなパネルデータを用い、このようなデマーケーションを取り除くことが生産性に及ぼす影響を測定し、マルチタスクがどのように生産性に影響を与えるのかに関する幾つかの仮説を検証する。推定結果によると、第一のタイプのデマーケーションを取り除くと石炭の生産量が27%増加するが、第二のタイプのデマーケーションを取り除くことは生産性に全く貢献していないことを示している。マルチタスクは、従業員間の仕事の異動を容易にすることによって、労働稼働率を高めたり、需要ショックに対応する能力を高めたりすることによって生産性を高めると一般的に考えられているが、我々の結果はこのような仮説には非整合的である。マルチタスクは、2度手間やセットアップタイムを省くことによって生産性を上げるという仮説のほうが、我々の推定結果により整合的であることをこの論文は示した。
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