研究概要 |
本研究は,土壌有機炭素(SOC)の変動予測に不可欠な土壌有機炭素モデル(SOCモデル)を開発するために,データを整理・収集し,モデルパラメータの推定手法を確立し,独自のパラメータを組み込んだSOCモデルを開発することを目的としている. 本年度は主に2つの成果を得た.まず,日本の農耕地土壌での長期炭素変化データを用い,マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC法)を導入して,Roth-Cモデルのパラメータを決定する手法を確立した.易分解,難分解性SOCのコンパートメント毎に分解速度の温度依存性パラメータを決定したところ,難分解性のSOCでは収束した事後分布が得られたが,土壌中で量の少ない易分解性SOCについては収束した分布が得られなかった.温度依存性の違いがコンパートメントの分解しやすさによって明らかにはならなかったものの,化学肥料や堆肥の投入によって栄養状態の良い土壌では温度依存性が小さくなるという結果が得られ,窒素の投入が土壌有機物の分解しやすさに影響を与えることが明らかになった.これらの結果は土壌有機物分解の将来予測を行う上で大変有用である. 次に,既存の研究を基にモデルのコンパートメントに沿って土壌中の炭素を分離・定量化する手法の確立を行った.モデルパラメータ推定,特に,易分解性のSOCについてのパラメータの推定精度を上げるためには,モデル中のコンパートメント毎のSOC量を定量化する必要がある.MCMC法ではデータが多いほどパラメータの推定精度が増すため,上記のSOCの長期変動データに加えてモデルで設定されているSOCコンパートメントの土壌中の構成比を明らかにすれば,より精度高いパラメータ推定が期待できる。手法を確立したことによって,次年度以降にさらなるデータの収集が可能になった.
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