生体分子や医薬品の細胞内動態を分子イメージングにより解析し、機能を解明する研究が盛んに行われている。また、マイクロPIXE(Particle Induced X-ray Emission)は、標識や染色といった試料調製ステップを必要とせずに、細胞内の微量元素分布をサブミクロンの空間分解能で画像化することができる、大変有用なツールである。そこで我々は、マイクロPIXEを用いて、細胞内小器官レベルでの微量元素の取り込みや移動から、医薬品などの生物活性分子の細胞内動態を解明する手法の開発を目指している。そのために本研究では、PIXE分析の対象となる金コロイドと光学顕微鏡観察用の蛍光色素の構造を併せ持った試薬(抗体)を細胞内小器官に特異的に輸送し、マイクロPIXEで細胞内小器官の標準画像を得ることを目的とした。In vitroでの研究に幅広く用いられているHeLa細胞を用いて、初年度は、実際にマイクロPIXEによって下記の検討を行った。 【1.簡便で再現性の高い細胞接着膜の検討】マイクロPIXE分析のバックグラウンドとなる元素を極力含まず、細胞の接着に適している膜の検討を行った。再現性を重視し、独自に膜のコーティングは行わず、市販品の中から選定した。 【2.化学固定法の検討】従来、マイクロPIXEでの細胞内元素分析には、凍結乾燥法による試料調製が採用されてきた。しかし抗体を細胞内に取り込ませるためには、化学固定が必要である。そこで、マイクロPIXE分析のバックグラウンドとなる元素を含まず、細胞の形態を良く保持する固定液の検討を行い、4%パラホルムアルデヒド及びホルムアルデヒドを採用した。 金コロイドと蛍光色素で標識された抗体を用いて調製した細胞のマイクロPIXE分析を予備的に行ったが、現時点では有意な結果は得られなかった。次年度は抗体反応の条件検討を行い、引き続き標準画像の取得を目指す。
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