研究概要 |
海水中には、炭素量換算すると大気中の二酸化炭素の60倍にも相当する大量の無機炭酸が存在している。海洋細菌の中には、有機物だけではなく無機炭酸を基質として取り込み、有機物に変換する能力を持つ細菌が存在する。本研究では、無機炭酸利用能を持つ細菌の存在量や種類について安価に調べる方法および無機炭酸を取り込んで有機物に変換する速度等を知るための分析方法について検討し、現場実験によって検証することを目的とした。 平成20年度は、前年度に確立した無機炭酸利用能を持つ細菌の存在量について調べる方法に加え、Catalyzed Reporter Deposition(CARD)-Fluorescence in situ Hybridization (FISH)法を用い、その種類について調べる方法を確立した。また、細菌群集が無機炭酸を取り込んで有機物に変換する速度を調べる方法として、放射性同位体標識された重炭酸塩を用いた測定を検討した。これらを用い、平成20年度8〜9月に実施された、学術研究船白鳳丸KH08-2次航海において、亜寒帯、中緯度、亜熱帯の3種類の海域において、無機炭酸利用能を持つ細菌群集の割合と種類および無機炭酸を利用した有機物生産速度等について、方法の検証および評価を行った。無機炭酸塩利用能を持つ細菌群集は中深層で割合が多くなる報告があったことから、本研究では水深100mおよび2,000mのふたつの水深で実験を行った。実験の結果、無機炭酸利用能を持つ細菌の割合と無機炭酸を利用した有機物生産速度との間には相関が確認された。また、一概に、中深層で存在割合と無機炭酸を利用した有機物生産速度が高いとは言えず、亜寒帯海域の両水深と中緯度および亜熱帯海域の2,000m水深では無機炭酸利用能を持つ細菌はほとんど確認されなかった。
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