本研究の計画は、正義の概念の捉え直しの一部として、正義の概念、特に回復的正義を構成する概念である復旧を巡る諸問題に焦点を当て、不正を被った民間人犠牲者に対して、彼らの権利を僅かながらも擁護し、正義を回復するための1つの方法として、復旧、具体的には謝罪、補償が考えられると共に、その必要性を論じることにある。 当該年度における申請者の研究内容は以下の4つに集約される。(1)「グローバル・エシックス」、「人間の安全保障」、「正義」特に「回復的正義」といった本研究の基礎となる概念の定義付けと、それらの定義の検討、(2)グローバル・エシックスとしての「人間の安全保障」にかかわる特有の問題を顕在化させるために、「人間の安全保障」を実現する手段の1つである人道的武力介入を巡る倫理的問題の検討、(3)如何にして「人間の安全保障」としての人道的武力介入が正当化されるかという問いを考察するために、人道的武力介入が正当化されうる倫理的根拠を検討、(4)人道的武力介入における民間人犠牲者を巡る倫理的問題の検討を行ってきた。以上の研究内容は、当該年度において出版された2件の学術雑誌論文および6件の研究発表において十分に達成されたと考えられる。 本研究の成果の意義は、研究成果発表によって人間の安全保障をグローバルエシックスの一部として位置づけ、また具体的には人道的武力介入における民間人保護と巡る倫理的諸問題を顕在化するに成功したことにあり、またこの点において本研究の重要性がある。 研究計画にあるように、当該年度末にはそれまでの研究計画と実際の進捗状況を照らし合わせる研究レビューを行った結果、研究計画と実際の進捗状況に間に差はなく、むしろ平成20年度における研究内容を若干カバーする研究成果を出すことができた。それにより平成20年度における研究計画の大幅な見直し・修正を検討する必要はなくなったと考えられる。
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