本研究の計画は、正義の概念の捉え直しとして、正義の概念、特に回復的正義を構成する概念である復旧を巡る諸問題に焦点を当て、武力紛争において不正を被った民間人犠牲者に対して、彼らの権利を僅かながらも擁護し、正義を回復するための1つの方法として、復旧、具体的には謝罪、補償が考えられると共に、その必要性を論じることにある。 本年度においては、グローバル・エシックスとしての「人間の安全保障」を、回復的正義という観点から平和実践のための枠組みの構築するために、(1) 回復的正義を巡る法的枠組みの検討とその限界の考察、(2) グローバル・エシックスとしての回復的正義の検討、(3) 事例研究を通した回復的正義の実践とその可能性を検討してきた。研究の進めていく上で、「人間の安全保障」という大きなわくではなくより具体的な概念である「(武力紛争において民間人を)保護する責任」に焦点を当てることがより効果的であることが判明し、後者の概念に焦点を当てつつ研究を進めてきたが、基本的には研究の方向性には変わりがなく、むしろより具体的な研究を進めることができたと考えられる。 研究の成果は、「保護する責任」概念における民間人戦争犠牲者への正義を論じるにあたり回復的正義の必要性を示すことにより、それをグローバル・エシックスの一部として位置づけ、また具体的には人道的武力介入における民間人保護と巡る倫理的諸問題の顕在化に成功したことにある。この点において本研究の重要性があると考えられる。 当該年度末にはそれまでの研究計画と実際の進捗状況を照らし合わせる研究レビューを行った結果、研究計画と実際の進捗状況に実質的な差はなく、おおむね目的を達成することができた。
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