本研究では、文化・文政年間の戯作界・演劇界・出版界の交流の中に於いて、馬琴がはたした役割を立体的に浮き彫りにすることを目的とする。具体的な研究内容としては、《I馬琴を中心とする読本の研究》と《II戯作界・演劇界・出版界の交流に関する研究》を並行する。平成19年度は、特にIの研究を進めるための資料収集及び作品分析を中心に行った。具体的には〈1-1馬琴をはじめとする同時期の読本作者の創作方法の特徴を、演劇の利用方法に注目して明らかにする〉〈I-2読本演劇化作品から戯作界に還元された影響を探る〉くI-3馬琴読本をはじめとする読本の浄瑠璃化作品の作者であり、また読本作者でもある佐藤魚丸の創作活動を、作品分析や演劇資料を渉猟して明らかにする〉研究であるが、特にI-3の調査・研究を進めた。本補助金交付決定直前に研究の中途報告として「読本作者魚丸」(『国語と国文学』、東京大学国語国文学会、84巻12号、pp51-63、2007)を投稿、掲載が決定した。狂歌師の蝙蝠軒魚丸、読本作者佐藤魚丸、浄瑠璃作者佐藤太・佐川藤太について検討の上、同一人物であることを再確認し、また読本『越路の雪』の一話「戯場ノ怪異」の典拠を具体的に指摘し、さらに魚丸の読本・浄瑠璃の特色を考察した。しかし未だ資料が不十分であったため、補助金交付後に引き続き資料を収集、調査を進めた。佐藤魚丸については申請者以外に具体的な研究はまだないため、この調査を進めることは読本浄瑠璃化の実態を明らかにするだけでなく、浄瑠璃作者・読本作者研究としても有益である。
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