本研究では、文化・文政年間の戯作界・演劇界・出版界の交流の中に於いて、馬琴がはたした役割を立体的に浮き彫りにすることを目的とする。具体的な研究内容としては《I馬琴を中心とする読本の研究》と《II戯作界・演劇界・出版界の交流に関する研究》を並行した。昨年度に引き続き、I・IIの研究を進めると同時に、年度内に研究成果の一部を口頭発表、または論文執筆(但し刊行は来年度)により報告した。具体的には<II-2上方書肆、河内屋太助による絵入根本出版の全容を明らかにすることで、読本出版と演劇化作品出版の両側面を担った上方出版界の動向を把握する><II-3歌舞伎俳優と読本演劇化の関係を、上方の演劇資料を博捜して明らかにする>の研究は、申請書でも触れたように研究協力者として参加する科研費(B)「近世後期江戸・上方小説における相互交流の研究」とも深く関わる内容であり、共同研究会(平成20年8月28日於国文学研究資料館)で「絵入根本と読本の演劇化-河内屋太助と嵐吉三郎を中心に-」と題して発表した。また<I-1馬琴をはじめとする同時期の読本作者の創作方法の特徴を、演劇の利用方法に注目して、明らかにする><I-2読本演劇化作品から戯作界に還元された影響を探る>の研究成果の一部としては、論文「『昔話稲妻表紙』の歌舞伎化と曲亭馬琴」(江戸文学40号、平成20年5月)を執筆した。またこれらの研究の過程で、馬琴の名と号について考察を深め、論文を執筆、「馬琴と蟹」(青山語文39号、平成20年3月)として発表した。
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