当該年度は、18世紀後半のタタール人と帝政ロシア政府との商業・宗教的側面における協力関係の考察に重点をおいて研究を進めた。6月に訪れたロシアのオレンブルク地方古文書館において、18世紀半ばから19世紀初頭にかけて、オレンブルクを中心に活躍したタタール商人の村、カルガルに関する行政文書を写真撮影し、夏以降12月にかけて、それらの文書の分析をおこなった。そして、その成果をスラブ研究センターにおける国際会議"Asiatic Russia:Imperial Power in Regional and International Contexts"において、Tatarskaia Kargala in Russia's Eastern Policiesという報告にまとめて発表した。この報告は、タタール商人の村カルガルの、ロシアと中央アジアの接続点としての重要性を、文書史料に基づき実証的に明らかにしたものであり、ロシアの東方拡大のうち、中央アジアへの影響力の拡大過程の解明に資するとともに、ロシア政府とタタール商人との協力関係を明確にしたという点で、ロシア・中央アジア関係史に新たな視点をもたらすものだったと言うことができる。 2月から3月にかけては、19世紀から20世紀にかけてのロシア語の出版物を豊富に所蔵していることで有名な、ヘルシンキの国立図書館を訪れ、モスクワやペテルブルクにおいては複写が厳しく制限されている諸資料について、数千枚の写真撮影をおこなった。その後、ヘルシンキからペテルブルクに移動し、開館したという噂のあった国立歴史古文書館を訪れたが、一般の閲覧室は未だ開放されていないことが判明したため、ロシア国民図書館での刊行資料収集をおこなった。
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