本年の研究実績の成果を以下の二点に分けて報告する。 (1)海外調査:10月19日から29日までベルリンとミュンヘンを訪問し、18世紀末のユダヤ啓蒙主義関係の一次資料を閲覧し、現地の研究者へのインタビューをおこなった。特に、ベルリン近郊の都市ポツダムにあるモーゼス・メンデルスゾーン・センターを訪問し、所長のシェープス氏と面会することができたことは極めて有意義であった。科研終了時に刊行する報告書には、シェープス氏の業績の紹介や論文の翻訳も掲載する予定である。 (2)論文:『ユダヤ・イスラエル研究』に掲載された論文「近代ユダヤ思想におけるカント主義の問題」では「ユダヤ・カント主義」の全体像を示すことを目指した。近代以降、多くのユダヤ知識人たちは、カント哲学の中にユダヤ教と共鳴するものを見出してきた。当のカント自身はユダヤ教には批判的であったことを思い起こすなら、ユダヤ知識人たちのカントへの関心の高さは注目に値する現象であるといえる。この論文では、ユダヤ知識人たちはカント哲学のどこに親近感をもったのかという問題について、代表的思想家の論文を通して明らかにした。 カント哲学は多くのユダヤ知識人にとって近代の象徴であった。カント哲学とユダヤ教の相反的な関係は、近代(啓蒙主義思想)とユダヤ教は共存可能かという問いへと直結している。
|