今年度の研究で特に成果をあげることができた領域は、スピノザとメンデルスゾーンの関係、メンデルスゾーンの政教分離理解、啓蒙主義的なユダヤ教理解の受容史の3つである。以下、研究成果を時系列に沿って報告する。 9月に岩波書店から出版された『ユダヤ人と国民国家「政教分離」を再考する』の中の一章「モーゼス・メンデルスゾーンと政教分離」を担当した。この論文の後半では、スピノザとメンデルスゾーンの関係に注目したが、9月に筑波大学で開催された日本宗教学会の中では特にこの点に関連する発表をおこなった。スピノザとは違って、メンデルスゾーンは、律法を、単に政治的なものとしてだけでなく宗教的なものとしても解釈した。ここにスピノザとの大きな違いがあった。 岩波書店の『思想10月号』に掲載された「シュトラウスとローゼンツヴァイク-20世紀ユダヤ哲学の系譜-」では、メンデルスゾーンに代表される啓蒙主義的なユダヤ教理解が、次第にユダヤ人たちの間で影響力を失っていった経緯とその理由について言及した。 2009年3月には、イスラエルのバル・イラン大学の招待を受けて国際会議「アジアにおける-神教」に出席した。私は、日本人の若手研究者と一緒に「日本におけるユダヤ学の創出」というパネルを立ち上げ、英語で「近代ドイツのユダヤ哲学と近代日本の宗教哲学」という報告をおこなった。報告の中では、メンデルスゾーンにも触れながら、律法や戒律をもつ宗教の存在意義を明らかにした。3月末には報告書を作成し、2年間の研究成果をその中に収録した。
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