本年度は申請時に提出した研究計画に従い、(1)ロシア問題に関して境界権力が行った諜報活動の実態把握、(2)境界権力によるロシア対策の展開、(3)フェートン号事件の再検討をテーマに研究を進め、(1)〜(3)の共通作業として長崎歴史文化博物館、佐賀県立図書館、九州大学、函館市立図書館などに赴き、史料調査を行った。 まず(1)については、1780-1810年代のロシア問題が同時代的に長崎と蝦夷の間で情報交換されていたのか検討した。両地ともに情報収集活動は行っているものの、公式レベルの入手情報量が少なかったためか、両地を行き来する商人からも情報入手する動きがみられたことが明らかになってきた。つぎに(2)については、佐賀藩のロシア船対策と大坂湾警備の実態について検討した。前者については、ロシア船への警戒感が強く、従来の体制を改める議論が活発に行われたが、文化期においては体制の改変までに至らなかったことが明らかになった。後者については、「大坂湾警備の展開」(『大阪大学総合学術博物館叢書3城下町大坂』)としてまとめた。(3)については、蝦夷地へのロシア船来航が緊迫するなか、船頭レベルから意見聴取するなどして長崎警備の根本的な見直しが検討されていた。そのさなかにフェートン号が来航し、結果、船頭が提案した方策を軸に長崎奉行が大名家と折衝し、新たな長崎警備体制を構築させようとしていたことを解明した。これについては、九州史学会にて「文化期における長崎警備の展開」と題して報告した。
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