本年度は、平成19年度より継続して、(1)ロシア問題に関して境界権力が行った諜報活動の実態把握、(2)境界権力によるロシア対策の展開、(3)フェートン号事件の再検討をテーマに研究を進め、最終年度でもあることから、(4)異国船問題に関する境界領域の対応と幕府対外政策の関連に着手した。 長崎歴史文化博物館、国立公文書館、韓国国史編纂委員会、弘前市立図書館、山口県立文書館、函館市立図書館などに赴き調査を行い、下記のような成果を得た。 (1)離島の大名の防衛体制が寛政から文化期にかけて変更されたが、共通点として階層を度外視した島民動員の警備体制であったこと。(2)フェートン号事件の経験から長崎奉行の防衛観が変わり、幕府権力の懐に入れて異国船に対処する方法から、領域に接近させない積極的な防衛に転換したこと。(3)長崎奉行主導で改善策を模索し、老中の了解を得ながら、課題に取り組んだこと。(4)既存の体制を現実に合うように幕府は変更しようとするが、幕藩制の壁にぶつかり大名家側の要求に妥協することによって、幕府が考える抜本的な改革にまでは至らなかったこと。(5)フェートン号事件を踏まえた長崎警備の改変と各大名家領警備の改変に時差がみられたこと。 前年度の研究成果と併せることによって、研究課題の目的を達成したといえるが、残された課題も存在する。特に離島を領地に持つ大名家に関しては、若干の関連史料を収集するにとどまった。今後何らかのかたちで研究を継続し、課題分析を深化させていくこととしたい。
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