19年度は、代表者がこれまでの研究の中で収集したシネヘン・ブリヤート語音声資料のデジタル化・文字化・データベース化を重点的に行った。これらは資料の恒久的保存とアーカイブ構築のための基礎的作業であり、今後の当該言語の記述研究を進めていく上で欠かせないものである。とくにデジタル化・データベース化に関しては、ワークショップでの海外研究者との情報交換によって、汎用性を高めるためのデータベース構築(メタデータの構築法、音声記述ソフトTranscriberによる音声資料の来字化、形態分析ソフトToolboxによるテキスト処理)の技術的知識を得たことで、データを効率よく加工・処理することが可能となった。当初の計画では年度内の公開を予定していたが、これらのデジタル化資料は現在も加工の過程にある。20年度中の公開をめざす。 また、春季には現地調査をおこない、シネヘン・ブリヤート語のあらたな音声資料の収集と文法事項(とくにヴォイス)に関する調査を実施した。同時に、調査資料にもとついて当該言語の旧来の品詞分類に対する評価と再検討をこころみた。旧来の品詞分類は形態的観点にもとつく客観的基準を有しているが、言語変容によってそぐわない点がみられることを指摘し、むしろ類型的観点に立てばこの分類が有効とは言えず、意味的側面も場合によっては考慮する必要があるとの結論に達した。「品詞分類」という、文法記述においてそれほど大きく問題視されることがなかった事項の検討は、実際には不十分な点を多く有しており、かつ他言語との対照をつうじて問題が大きく見出される。すでにこの点については他言語の記述研究に従事する国内研究者とともに議論しており、その成果は20年度内に公開する予定である。
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