本年度の研究・調査については、当初計画していたものを十全には行えなかったものの、次年度につながる基礎的作業に関して進展が見られたと考える。 まず、『「改造」直筆原稿の研究「改造」直筆原稿画像データベース』(雄松堂出版)を購入し、これら改造社に残された作家の原稿を、出版メディアと職業作家との連携や相克を含めた総合的な関係が顕わになる資料として考察する手がかりを得た。 また、研究課題を遂行するための基礎的作業として、横光利一の同時代文献について、デジタルデータとして入力を行い、今後の研究の利便性を高めた他、出版メディア関係の書誌書目についても購入に努め、基礎的データの蓄積を図った。 全国各地で行われた文芸講演会といった出版メディアによるメディアイベントについても、当初予定のものすべてについてはできなかったが、東北各県のうち、特に福島県の文芸講演会の実態について調査を行い、出版メディアの展開と特に横光利一との関わりについて知見を広げることができた点が収穫であった。今後は、こうした調査を継続的に行い、これまでの調査と連関させながら横断的に出版メディアと作家の関係を把握し、考察していく必要がある。 その他には、中央公論社社長であった嶋中雄作について書く機会が与えられたことから、嶋中の年譜的軌跡を調査しながら、彼を中心とした中央公論社、特に昭和前期における『中央公論』『婦人公論』のメディア展開と、大衆読者との連携関係についても考察を深めている途上である。
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