1920〜30年代のフランスでは広告業が独立した産業分野として構造化を進め伸張期を迎える一方、幾何学的な構図や単純明快な色彩を特徴とする屋外壁面広告が新たに登場した。これらアール・デコ期のポスターは視覚的な明瞭さを追求するという機能主義てきな美学においても、創作の基盤を産業界に置くという制作環境においても、それ以前の時代とは大きく異なる方法論に基づくものであった。本研究ではこうしたポスターをめぐるパラダイム変化に注目し、この過程で形成された「広告芸術」の思想を考察対象とする。 本年度はフランスにおいて二回の海外調査を実施し(平成19年12月23日〜平成年1月8日、平成20年3月10日〜28日)、20世紀初頭に景観保全を目的に壁面広告規制運動を展開したフランス景観保護協会とパリ友の会、また広告雇用者組合と広告技術者同業組合という広告業初の組合組織に関する一次資料の収集、関連研究書の調査を行った。これを通して新職業集団としての広告業の独立と発展を促した社会的要因の一端をあきらかにするとともに、広告が近代都市の景観と効果的に調和する方策を探るという新発想が生まれ出る動向を跡付けた。 東京とパリで小規模な研究界を開催し(平成19年10月8日、平成20年1月6日)、研究協力者のパリ第十大学美術史学教授セゴレーヌ・ルメン、広告美術館学芸員レジャンヌ・バルジエル本研究の構想と方法について意見交換を行った。今後も情報交換を積極的に継続することで合意した。
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