1920〜30年代のフランスでは広告業が独立した産業分野として構造化を進め伸張期を迎える一方で、幾何学的な構図や単純明快な色彩といった様式的特徴を示す屋外壁面広告が新たに登場した。これらアール・デコ期のポスターは視覚的な明瞭さを追求するという機能主義的な美学において、また創作の基盤を産業界に置くという制作環境においても、それ以前の時代とは大きく異なる方法論に基づくものであった。本研究ではこうした両大戦間期におけるポスターをめぐるパラダイムの変化に注目し、その過程で形成された「広告芸術」の思想を考察対象とした。 本年度はフランスにおいて2回の海外調査を実施し(平成20年8月16日〜9月17日、平成20年12月25日〜平成21年1月2日)、アール・デコ期の主要ポスター・デザイナーが参加していた建築家・装飾家の団体である現代芸術家連盟、およびポスター・デザイナー自身の著作に関する一次資料の収集、関連研究書の調査を行った。これを通して、デザイナーが連盟の唱えるものづくりの原則に賛同して、おおむね1925年以降、1930年代半ばにかけてポスターの様式刷新に臨んだこと、さらにこうした実践が美術批評家や広告産業家との緊密な関係の中で、理念の上でも利害の上でも目的を共有しながら推進されたことが明らかとなった。 東京とパリで小規模な研究会を開き(平成20年5月3日、11月14日、12月29日、平成21年1月6日)、研究協力者のパリ第十大学美術史学教授セゴレーヌ・ルメン、同大学近代史教授フランシス・デミエ、広告美術館学芸員レジャンヌ・バルジエルと意見交換を行った。
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