本年度は、これまでのミシェル・レリス研究においてほとんど言及されることのなかった著作『サンガのドゴン族の秘密言語』の読解に取り組んだ。これは、レリスの民族誌学の学位論文であり、一見したところ極端に専門的で閉鎖的な印象を与える大部の著作であるが、実際に読み解いてゆくと、彼の文学作品および自伝作品とさまざまに連絡するものであることがわかった。とりわけ、レリスの代表作『ゲームの規則』およびこの連作が胚胎されたのと同時期に書かれた「日常生活の中の聖なるもの」というテクストとの間には興味深い反響を聞き取ることができ、この点についてテクストに沿って分析を行ったものを日本フランス語フランス文学会で発表した。 これを論文にしたものが現在査読中である。 また、この発表の際に盛り込まなかった考察および、民族誌学に関連して新たに得ることのできた知見を材料とし、早稲田大学フランス文学研究室刊行のETUDESFRANCAISESにおいて展開した。これは結果的に、レリスだけではなく、『ミノトール』誌、『ドキュマン』誌、『トロカデロ博物館報』などの1930年代におけるフランスの定期刊行物の在り方に目をむけることにつながり、当時の民族誌学という知のありようと、レリスの詩学を交差的に論考することとなった。 これまではテクストの表現の水準、作品の構造などの内的なものを研究の主要な手がかりとしてくることが多かったが、本年度は、テクストの置かれた歴史的・文化的文脈および民族誌学という離れたジャンルをも考慮に入れつつ対象を捉えるというより可能性を見出すことができた。
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