本研究では、アイルランドの作家ジェイムズ・ジョイスの主著『ユリシーズ』を主な対象として取り上げ、この小説に書き表された人間身体及び機械テクノロジーの表象について研究することを目的とした。 ジェイムズ・ジョイスが、1918年からThe Little Review紙に『ユリシーズ』を連載し始め、1922年に出版して以後、この作品が世界文学に与えてきた影響は大きく、更にはまた、文学の枠を超えて、欧米のモダニズム文化に影響を及ぼしてきた。その一方で、『ユリシーズ』において、当時の機械テクノロジーとそれが人間の身体に与えた脅威を、この作家が巧みに捉えていることを検討する研究は、ほとんどなされてこなかった。本研究では、『ユリシーズ』を中心としたジェイムズ・ジョイス作品の身体イメージが、どのように当時の機械チクノロジーと人間の身体との緊張関係に基づいて構築されているかについて、テクスト分析及び関連する資料の調査分析、同時にまたモダニズム文化における人間身体の表象とその分析を通してリサーチを進めた。その結果、百科全書的とも言える膨大なカタログ式の描写によって人間の多様性を描き出しながら、機械テクノロジーによる大量破壊と戦争への嫌悪という点において、主要な登場人物たちが深い共通点を持つ具体的なありようを知ることが出来た。また、『ユリシーズ』における機械と身体の表象の分析が、これに先立つ諸作品の詳細な分析と比較とを必要としている点も分かった。 今後も引き続き『ユリシーズ』における身体とテクノロジーの表象をいっそう詳細に検討し、このテーマにおけるジョイス諸作品の相互連関の解明に努める予定である。
|