本年度は、ヴェネディクト・エロフェーエフの創作時期(1950年代末〜1990年)のなかで、とくに1960〜1970年代に関する資料収集、そして1980年代の作品研究を行なった。1980年代の彼の創作は戯曲作品が中心だが、これまでまったく研究されてこなかった未完の戯曲『反体制派、あるいはファニー・カプラン』の読解と作品研究に取り組み、それを論文「「ドラマ」への欲望、あるいは「自己増大するロゴス」--ヴェネディクト・エロフェーエフ『反体制派、あるいはファニー・カプラン』--」として早稲田大学演劇博物館グローバルCOE紀要に投稿し、査読を軽て掲載されることとなった。当時の政治、社会、文化状況も踏まえながら、この作品を彼の創作全体のなかで位置づけるとともに、同時代の西側演劇の文脈も視野に入れた位置づけを行なった。 その結果、従来取り組んできた1980年代のほかの作品(戯曲『ワルプルギスの夜』、散文『私のささやかなレーニン物語』)の研究成果と合わせて、1980年代の創作研究はほぼ完成することとなった。従って、予定を早めて1960〜1970年代の創作に関する資料の収集を行なった。特にロシア国立図書館でしか閲覧・入手できないロシア国内の学位論文を中心に収集することができた。また同図書館においては、ロシアの地方都市や旧ソ連圏の各地で発行されている、一般的に閲覧・入手が困難な学術論文集の資料も収集することができた。また1970年代の地下文化の一部分を担っていた芸術家たちにも聞き取り調査を行なうことができた。これらの成果は2008年度に学会報告、論文発表等でまとめていくつもりである。
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