本研究課題の第一の目的は、沖縄の戦跡に関する研究成果を単著としてまとめることである。さらに、第二の目的として、旅順の戦跡をめぐって、「大日本帝国」が日露戦争の記憶を有効活用したうえで、どのように近代国民国家を形成していったのか、そのプロセスを検証することが挙げられる。 本研究の2年目にあたる今年度は、昨年度に引き続いて、沖縄を対象とした調査研究と旅順を対象とした調査研究が並行して進められた。沖縄を対象とした調査研究に関しては、すでにその成果の一部として、単著論文「戦死者遺骨のナショナリティ-1952年の沖縄をめぐる「遺骨野ざらし」問題」を発表している。さらには、2009年5月に、これまでの沖縄の戦跡に関する研究成果をまとめた単著を刊行の予定である。これにより、上記の第一の目的は果たされる。 旅順を対象とした調査研究に関しては、重点的に資料収集と調査を実施した。本年度を通して、旅順を中心とした日露戦争の戦跡に関する公文書、ガイドブックや写真資料、各種戦跡訪問(遺族や在郷軍人会の慰霊巡拝、修学旅行、教員や議員等の研修、大学生や知識人等の視察)の事前資料や事後報告、新聞記事、雑誌記事などの関連資料の収集につとめた。特に奈良県と大阪府において行った調査では、奈良県立図書情報館の戦争体験文庫や大阪府内の高校などをめぐり、貴重な資料を多数入手することができた。 さらに、中国の大連市(特に旅順口区)において現地調査を行い、近年まで外国人が入域を許されなかった場所で調査を実施する重要な機会を得た。そこで、戦跡をめぐるナショナリズムがどのように展開されているのかという問題に対して、新たな知見を用意する現在進行的な調査データを得ることができた。何よりも上記の第二の目的の達成に向け、戦前期の旅順における戦跡の分布(配置)との地誌的な比較作業を試みることができたことの意義は大きい。
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