研究概要 |
本年度の補助研究における最大の成果は本研究課題に関する著書を出版したことである.本書は,英語における名詞複数形態(主に-s語尾)の通時的な発展を,主に初期中英語期に焦点を当てて記述(how)し説明(why)したものである.結果,従来の研究で十分に扱われてこなかった話題についての比較的大規模な調査報告となった. 研究の方法論としては,現代的な視点を前面に押し出すことを目指し,1.最新の電子コーパス(Linguistic Atlas of Early Middle English),2.近年充実しつつある歴史方言学や接触言語学の知見,3.言語変化の一般的傾向を論じる語彙拡散理論,を援用した.これにより,今後の英語史研究の手法に新しい可能性を提示できたと考える,特に,本研究は1.を使用した研究としては最も早いものの一つであることを強調しておきたい.また,3.については,当該理論の洗練に資する多くの具体例が本研究から得られ,今後の理論的発展へも弾みがつくものと信じる. 当初は,初期中英語期のみならず古英語期から現代英語期にわたる複数形態の通史を記述することを目指していたが,最終的に研究期間内で扱うことができたのは,後期古英語期と後期中英語期のみだった.ただしこの両時期のテキストについては,文献学的な精緻な読みに基づいた研究をなしえたと信じる.現代英語までを包括できなかったことは反省の余地があるが,引き続き同じ主題で当初の計画通りに研究を続け,1.現代英語までを包括する複数形態の通史の記述と,2.論文執筆や学会発表等による本研究成果の積極的出力,を志したい.
|