研究概要 |
本年度は、万葉集を対象として、(1)助辞表記の機能について、(2)助辞表記と歌表現との関わりについて、(3)表現の変遷と表記の変化との関わりについての3点を中心に考察した。具体的な成果は以下のとおりである。(1)平安期以降の仮名万葉に採録された歌の原表記を調査、比較し、平仮名に変換された際の表現の変化を分析した。その結果、平安期に流布した万葉集が現在のものと異なる可能性を指摘した。成果は「古今和歌六帖と万葉集の異伝」(『日本文学』Vol.57,No.1)に公表済であるが、その後の調査から明らかになった事項を21年度中に公表する予定である。(2)(1)に引き続き、仮名表記された歌における助辞の機能を調査した。特に大伴家持作歌に注目し、注記の文字との共通性とその傾向をデータ化、分析した。奈良朝には、古歌を注釈・研究し、その表現を歌に取り込むという作歌方法が広く行われていたと考えられること、また、家持作歌中の仮名表記に、そうした注釈の表記との共通性が認められることを確認した。成果は既に研究会飛鳥(2008.8)で発表済であるが、さらに修正したものを21年度中に公開する予定である。(3)(2)の成果を踏まえて奈良から平安期の和歌における表現形式化についての調査を行った。その結果、大伴家持の作歌に関して、すでに古語として形式化していた表現を和歌に取り込む際に仮名を使用していることが確かめられた。成果は『鶴見日本文学』第13号に公表済である。
|