本年度は、日本国内および中国(南京)・台湾(台北)において関連史料の収集に努めるとともに、アメリカ(2007年12月、コロンビア大学)および韓国(2008年1月、延世大学)で開催されたワークショップにて、近代中国のリベラリズム思想と自由の実態について中間報告をおこなった。また、2007年11月には村田雄二郎教授(東京大学大学院)を招請し、近代中国のリベラリズム思想の展開に影響を与えた国際環境について、とくに中米関係を中心に助言を賜った。 以上のように近代中国リベラリズム思想への理解を深めていく中で、自由や人権を具体的に規定した「中華民国憲法」の制定過程についても分析を加えた。ここでは特に張知本の憲法論に焦点を絞って、自由・人権とナショナリズムの関係性を再考した。 この分析で明らかになったことは、1930年代の中国において自由や人権を憲法で直接保障しようとする動き(「直接保障主義」)が既にあったこと、1936年に公布された憲法草案(「五五憲草」)では「直接保障主義」が採用されず、自由と人権が法律によって制限されていたにもかかわらず、1946年の「中華民国憲法」制定時には「直接保障主義」が復活し、自由や人権をより多く保障する内容へと変質していたことであった。しかも、それは三民主義を冠したナショナリズム論とも調和的であり、いわばシビック・ナショナリズム論に近似した憲法論であった。
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