本年度は、日本国内および中国、香港において関連史料の収集に努めるとともに、上海(2008年9月、復旦大学)で開催されたワークショップにて、近代中国のリベラリズム思想と自由を支えていた制度的背景について報告をおこなった。また、2008年6月には薛化元氏(政治大学教授)を招請し、近代中国および現代台湾における「中華民国憲法」制定史とその変遷過程について助言を賜った。 以上のように近代中国の憲政史と自由について理解を深めていく中で、当時の言論・出版の自由がどのような実態をともなっていたのかについても考察を加えた。 この分析で明らかになったことは、以下のとおりである。 (1)近代法制に基づく統制と非合法的な統制は清末から途絶えておらず、1930-40年代においても根絶していなかった。 (2)しかし他方で、清末の立憲改革以来の憲政にむけた政治潮流のなかで、制度によって保障された自由を実現していこうとする動きも存在していた。 (3)また(1)のような統制政策にもかかわらず、その制度的弛緩を逆手にとって、反政府的な言動を実質的に展開できるような公共空間も存在していた。その象徴の一つが、海賊版書籍の存在であった。
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