本研究は、(1)哲学と自然・社会科学との関係の問題、(2)哲学が社会において果たしている、或いは果たすべき役割の問題、(3)哲学の今後の可能性の問題、という三つの「メタ・哲学的問題関心」を持つ私の長期的研究計画の一部を為すものであり、まずはこの三つの問いに対して大きな示唆を与えると期待されるドゥルーズ哲学の前期主要著作『差異と反復』(1968年)の内在的理解を推進することを目指すものである。 特に本研究はドゥルーズ独特の「強度」概念の解明に焦点を絞っており、2008年に刊行された『ドゥルーズ/ガタリの現在』(平凡社)に論文「強度概念再考-その内在的理解の深化に向けて」が掲載された。この論文は、ドゥルーズが自らの「強度」概念の構築にあたり参照したJ・パリアールやM・プラディーヌといったフランスの心理学者の言説を詳細に吟味することで、ドゥルーズの「強度」概念の理解の更新に寄与するものであった。 現在、本研究は、一方で上記の心理学者と同様、ドゥルーズの「強度」概念構築に影響を与えたと見られる発達心理学者J・ピアジェによる「強度的空間」の理論の検討を進めている。他方で、ドゥルーズの「強度」概念が、カントによる「知覚の予料」の議論を批判的に乗り越える文脈で提出されたことを重視し、この意味でドゥルーズの議論に多大な影響を与えたと見られるH・コーエン、S・マイモン等の理論家による、「微分法」や「強度量」に関する言説の検討を同時並行的に進めている。この二つの方向を可能であれば統合させる形で、更に別の角度から「強度」概念の内実理解を深める論考を構想中である。
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