昨年度から継続して作成中のデータベースを用いて個別のテクスト分析を行った。具体的には、1910年代のイギリスのジャポニスムと、その当時ロンドンに滞在していた日本の知識人との間で起こった出来事や事件を通じて、当時のジャポニスムが日本人に与えた影響について考察し、拙稿を執筆した。具体的には以下の3点を論じた。 1、ジャーナリストの長谷川如是閑と日英博覧会について 2、劇作家・舞台評論家の坪内士行とイギリスの前衛舞台について 3、文芸評論家の長谷川天渓と国家概念の変容について 1については、同時代のロンドンの「日本」イメージについて、2については、日本の伝統性(能などの舞台芸術)と西欧モダニズムの舞台表現との混交状態について、3については、「国家」概念と、精神分析学やジェンダーとの関連を探った。これらの調査・分析により、日本の伝統性が、異文化との接触により、様々に変容しながら再発見されるプロセスの一面を解明することができた。 加えて、1930年代〜1940年代の日仏文化交流について調査した。1920年代のパリでは、松尾邦之助らを中心とする日本文化紹介が行われており、その活動を日本に紹介した川路柳虹の役割や、パリの満鉄事務所に勤務した坂本直道(坂本龍馬家を再興した人物)が、1930年代のパリで行った活動(日仏同志会)の内実、さらに、画家の藤田嗣治が監督した映画などを考察した。これらは、先のデータベース作製の過程で発見された論点であるが、今後、戦前の日本人と西欧ジャポニスムとの関係の実態解明を進める上で、いくつかの重要な問題点を発見することができた。
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