本年度は、南インド・アーンドラ地方ので、ナーガールジュナコンダ、アマラーアティーの両遺跡および初期ヒンドゥー教の馬蹄形寺院の遺例が残るチェジェルラのカポテーシュヴァラ寺院の遺跡調査、仏教美術・ヒンドゥー教美術の遺品が収蔵されるナーガールジュナコンダ、アマラーヴァティーの考古博抑館、ハイデラバード州立博物館、グントウールのバウダシュリー考古博物館等を調査した。 ナーガールジュナコンダでは、仏教美術の遺品の他にカールティケーヤの丸彫像、ヤクシャの丸彫像断片などインド考古局の当地の発掘調査で跡付けられた祠堂の本尊(遺跡82、遺跡64等)が確認でき、イクシュヴァーク朝ナーガールジュナコンダでは仏教、ヒンドゥー教が信仰され、また上記の民間信仰の神々の遺品から当時の重層的な信仰の様相が確認できた。特にカールティケーヤ像については5世紀以降にシヴァの息子に組み込まれる以前の民間信仰の濃厚な信仰を残しており、またヤクシャ神像の断片などの存在から当地で民間信仰が盛んな様相が看取された。このことはクシャン朝マトゥラーにおいても同様の出土品が確認される点、当地においては本尊共に遺構も確認されており、当時の宗教美術の様相を解明する手掛かりとなるであろう。また、チェジェルラのカポテーシュヴァラ寺院については、本来仏教寺院で、後にヒンドゥー教に転化したとみられるが、ナーガールジュナコンダにおいても仏教以外に馬蹄形寺院の遺例が看取され、検討の余地があろう。インド全体を考えた場合、馬蹄形の寺院の構造は西デッカン地方の紀元前の前期石窟寺院や紀元後のクシャーン朝マトゥラー(ソンク)のナーガ祠堂等にも確認される点、馬蹄形の祠堂が仏教起源とする見解についてもインドの宗教美術の様相を鑑み、馬蹄形寺院の展開を見据えた上で、考慮する必要があることを実地調査で認識した点、今後の研究の視座を提供してくれた。
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