研究概要 |
日本語における聞き手の言語・非言語行動は、話し手と聞き手の親疎、フォーマリティ、年齢等のコンテクストによって異なる。本研究は、Miyazaki(2007)で欠けていたコンテクスト、母と娘の会話における、娘世代の聞き手行動を分析した。その結果、同世代友人との会話に比べ、言語・非言語行動ともに頻度が低いことがわかった。Miyazaki(2007)の結果と総合すると、20代前半の女性の聞き手行動は、以下の3つの型に分類できる。(Sは話し手、Lは聞き手) (1)(S研究者-L女子大学生)[-親しさ,+力差]→言語(相槌)<非言語(うなずき)のみ (2)(S母-L大学生の娘)[+親しさ,+力差]→言語(相槌)>非言語(うなずき)のみ (3)(L大学生の娘とSその友達)[+親しさ,-力差]→言語(相槌)>非言語(うなずき)のみ さらに、15分あたりの聞き手行動の総数は、(2)<(3)<(1)の順に多く、親しさと、聞き手行動の関係に関しては、(1)の初対面の年長の相手には、言語(うなずきと共起したものも含む)より非言語行動(うなずきのみ)の頻度が高く、(2)(3)の親しい相手には、言語行動による応答を多く使用することが明らかになった。最も親しい血縁関係(母娘)では、友人の場合より言語・非言語ともに応答が少ないことは、親しさの質の違い(ウチソトの関係)が原因である可能性があると解釈した。 当該年度には、JSLとJFL環境で学習する日本語学習者(大学生)の聞き手行動について、S研究者とL学習者(聞き手)の会話データを収集し、母語話者の型(上記(1))と比較する実験を行った。JFLに比べ、JSL環境の学習者の方が、同じレベルの学習者でも一般的に聞き手行動の頻度が高く、言語行動のバリエーションが豊富である他、同じ滞在期間でも、学習者の居住形式(ホームステイか一人暮らしか)や、課外活動への参加等、日本人コミュニティーにおけるネットワークの広さが、母語話者に近い聞き手行動の習得を示唆する結果となった。
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