研究課題
本研究の目標は、植物考古学の手法を使った日本列島先史社会の生業基盤の再考のため分析・解釈に有用な基礎データを、伝統的焼畑農耕および水田農耕をおこなう地域の民族調査によって得ることであった。パプア・ニューギニア、バリ島、奄美大島における民族調査の結果、下記の2点においてその成果が得られた。1)農耕社会は多様な姿をとり、狩猟、漁労、野生植物採集など多くの生業基盤と併行する一要素が農耕であるにすぎない社会もあれば、生業としてはほぼ農耕のみに依存する社会もある。どの姿が取られるのかは、社会ごとの文化的選択による。2)日々の生業活動、生業サイクルにも多様な姿がある。貯蔵施設はとりわけそれを反映し、毎日同じ主食を食べるための恒常的な貯蔵から、種子の貯蔵、また祭祀など特別な機会の食べ物の貯蔵など、色々な性格のものがある。この性格の違いは、貯蔵の象徴的、社会的重要性にも影響する1)については、焼畑農耕以外にも多様な生業戦略をもつパプア・ニューギニア社会と、社会的にコメのみが正当な食糧と価値づけられ、食糧基盤はほぼ全面的に水稲農耕に依存するバリ島社会、本来多様な生業戦略をもっていたが、政治的な操作によって農耕への依存を高めた歴史をもつ奄美大島社会の比較から、農耕社会にはさまざまな姿があることを理解できた。今後先史社会の植物考古学調査においても、農耕以前・以後という視点ではなく、総体的な植物利用の変遷とその基盤にある社会について解釈していく視点が得られた。2)については、パプア・ニューギニアのヤムハウスにおけるミルンベイ諸島、東ハイランドの比較、またそれとバリ島コメ倉の比較から、貯蔵施設の多様な意味合いとその社会的重要性について知ることができた。先史社会の研究においても、植物貯蔵の痕跡を一様に解釈せず、社会構造の復元のなかでその意味を考えていく視点が得られた。
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Neomap Interim Report 2008- Neolithisation and Modernisation : Landscape History on East Asian Inland Seas
ページ: 171-184
日本考古学協会2008年度愛知大会実行委員会編日本考古学協会2008年度愛知大会研究発表資料
ページ: 309-324