本年度は、研究基盤の整備として、古墳出現期の加飾壷および関連資料の集成を中心に作業を進めた。近畿地方を中心に西日本各地の資料を精力的に集成したが、その結果、岡山西部から広島、愛媛といった中・西部瀬戸内地域において、特徴的な口縁部形態を有する加飾壷が分布する状況が明らかになった。そこでそれらの壷の実態を把握する目的で、広島・岡山県域を中心に見学旅行を実施した。 着目した口縁部形態は、広義の二重口縁として理解できるものの、(1)一次口縁と二次口縁との接合に伴って一般的に生じる段差が不明瞭で、広口壷(単口録)状の断面形態をとる、(2)その一方で、一次口縁と二次口縁の境界部分の外面に粘土を付加して、明瞭な垂下部分を作出する、といった特徴をもつ。資料の実見の結果、(1)の点は一次口縁と二次口縁とを分割せずに連続的に成形した結果である可能性が高いことが確認できた。また(2)の点は、そうした成形上は不明瞭な一次口縁と二次口縁とを外見において区別し、施文部位を明確化する意図でなされたものと判断できた。こうした口縁部形態をとる壷は、器面調整や施文手法においても高い共通性を有する。したがって中・西部瀬戸内地域に展開するこの王の壷のあり方は、加飾壷の地域的展開の実態を示しているものと理解できる。今後は、そうした地域的な過程を詳細に把握することで、この主の壷の伝播経路やそれをめぐる地域間交流の実態が解明できるものと期待できる。 来年度は、上記のような成果を受けて、さらに全国的な資料集成および実見作業を進め、全国的な加飾壷の成立・展開過程の解明に取り組む予定である。
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