研究の基盤整備として進めてきた資料集成を本年度も継続して実施した。昨年度、未完了であった近畿地方と、新たに東日本各地の加飾壺および関連資料の集成を行った。2ヵ年にわたる集成作業により、全国的な加飾壺の分布状況を把握することができた。近年、加飾壺の淵源は伊勢湾沿岸地域にあるとする主張が定着しつつあるが、伊勢湾沿岸地域における分布は希薄であり、むしろ分布の中心は近畿地方にある点が明らかとなった。また、伊勢湾沿岸地域では、同地域に特徴的なパレススタイル壺に共伴して加飾壺が出土することが一般的であり、加飾壺が単独で出土する近畿以西とは使用形態が異なることが推測された。 なお、本年度12月末に刊行された奈良県桜井市ホケノ山古墳の発掘調査報告書(奈良県立橿原考古学研究所編2008『ホケノ山古墳の研究』)は、当該期の王権中枢部における加飾壺のあり方を理解する上で極めて重要な内容を有するもので、使用状況も含めてその実体が報告された意義は極めて大きい。同報告書の刊行を受けて、改めて加飾壺の型式分類を再検討するとともに、集成した資料を型式ごとに整理し、その分布状況を検討した。 また、西部瀬戸内地域を中心に、出土資料の見学調査を実施し、加飾壺の地域的展開の具体相について考察を深めた。昨年度、見通した広島・愛媛県域に特徴的な加飾壺の展開を追認する一方で、それとは異なる型式の加飾壺が特に愛媛県域で展開することを確認し、加飾壺の地域受容の複雑なおり方が明らかとなった。今後は、こうしたあり方を、古墳定型化以後の埴輪の展開過程とも比較することで、古墳祭祀の伝達経路や地域受容の背景を考える手がかりとなることが期待される。
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