引き続き脆弱国家論・平和構築論・コーヒー生産等に関する資料収集や、コーヒーに関連する統計データの収集整理を進めつつ、以下の諸点を追究した。第一に、コーヒーの国際的な生産・流通・消費に関する論点をさらに掘り下げた。とりわけベトナムコーヒーカカオ協会元理事長のMr.Doan Trieu Nhanに対するヒアリング調査を行なうなどした結果、ベトナムのコーヒーの増産をめぐるいくつかの通説(先行研究)が多分に誤りであることや、ベトナムのコーヒー増産を可能にした真因としては90年代前半の土地制度の変更が大きいことなどが、判明した。第二に、国際コーヒー協定の経済条項の復活に向けた条件を精査した結果、「単一割当」(ユニバーサル・クオータ)と「選択調整制度」(セレクティビティー)の導入が必要不可欠なことを明らかにした。第三に、コーヒーという財の特質から、世界のコーヒー生産の4割弱を占めるロブスタ種のフェア・トレードの拡大可能性は窮めて低く、コーヒー価格安定化のためにフェア・トレードに期待をかけるのが困難なことを明らかにした。第四に、以上から経済条項を含んだ国際コーヒー協定が復活しない限り、脆弱なアフリカ諸国のコーヒー産業の建て直しと、それを通じた平和構築・国家建設への展望は、若干の例外を除くと全体としてはほとんど開けないことを、明らかにした。 なお熱帯産一次産品農産物の生産・取引・価格等の動向と国家の脆弱化との相互関係を説明しうる普遍的な分析フレームワークの構築と、「国家が破綻しない国際経済秩序」の具体的な提言については、時間の制約もあり至らなかった。これは今後に残された課題である。
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