研究年度第2年目でかつ最終年度にあたる本年度は、一次史料の収集及びデータの整備を継続しつつ、史料分析と研究成果の公開に努めた。史料収集については、昨年度から引き続き、国立銀行の検査史料を含む東京大学総合図書館国際資料室所蔵の「大隈文書」(マイクロフィルム)を収集した他、日本金融史資料をはじめとする各種資料の収集と銀行業のリスク・マネジメントの展開過程に関わる部分のピックアップを行った。そして、これら収集した史料(資料)の分析を順次進めた。さらに、日本同様のナショナル・バンク制度をもつアメリカ国法銀行の史料を収集するため、アメリカ・ナショナルアーカイブズ(於ワシントンDC)で海外調査を行い、日本の銀行業の近代化に関する考察を掘り下げることも試みた。 本研究を通じて、日本の銀行業の近代化は、アメリカより遅れつつも、明治維新期の大蔵省銀行検査を槓杆にして、増資金の裏付け、西洋式簿記の導入、銀行役員の高額報酬問題、検査対応といったprimitiveなレベルから進展し始め、貸出分散や増益方法の模索等へと発展し、大正期にはポートフォリオ・マネジメントや支店監督体制等が定着し始めるという形で進んだことが、国立銀行(第十五等)や普通銀行(第八十五等)の一次史料ベースで具体的に明らかとなった。従来ほとんど検討されることのなかった日本の銀行業のリスク・マネジメントの展開過程が、複数の銀行の史料に基づき明らかとなったことは、大変意義深いと考えられる。なお、これらの研究成果の一部については、下記項目11で記した2篇の学術論文及び地方金融史研究会での口頭発表において公表している。
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