研究概要 |
動物は,自らの自発的な行動遂行が生物学的有意義事象の必要条件となっていることの学習(道具的学習)と,自らの行動遂行とは独立な生物学的有意義事象を予期することの学習(パブロフ型条件づけ)を弁別できるだろうか。適応の様相を異にするこの2つの学習を訓練した実験文脈に対するラットの反応を検討することによってこの問題に対する回答を試みた。それぞれの被験体に対して,Y迷路の一方の目標箱(文脈)において食物を強化結果として用いた道具的学習を訓練し,もう一方の目標箱で同じ強化結果を用いたパブロフ型条件づけを訓練した。このような訓練の合間に,被験体に2つの文脈を自由に選択して進入することを許可したテストをおこなった。 実験1では,それぞれの被験体に対してフリー・オペラント訓練と,これに対応したパブロフ型文脈条件づけを訓練した。その結果,テストにおいて被験体はパブロフ型条件づけ文脈を選好することが明らかになった。実験2では,弁別オペラントと,これに対応した離散試行型パブロフ型条件づけを訓練した。この結果,被験体は総じてパブロフ型条件づけ文脈に対する選好を示したが,訓練初期には道具的学習文脈に対する有意な選好がみとめられた。 弁別オペラントの訓練初期には,弁別刺激と道具的行動の表象が形態化し,道具的行動の明瞭度を高めたと考えられた。その結果,ラットは自らの行動の遂行とその結果(食物の呈示)の間の制御的な関係をよく検出し,学習性幸福の状態を経験したのだろう。このようにして形成された両文脈間の情動的コントラストが道具的学習文脈に対する選好に内在していたと解釈された。本研究の結果は,動物が道具的学習とパブロフ型条件づけという2つの学習を弁別することを示唆するだけではなく,飼育動物のある種の行動的福祉(コントラフリーローディング)の基礎理論に対する貢献をもおこなった。
|