本年度は、本研究全体の準備的作業として、討議民主主義理論、司法権の概念及び裁判所の司法権行使の民主的正統性の検討ならびに国民の司法参加の制度に関する外国語文献及び邦語文献を網羅的に収集し、文献データのリストを作成したうえで、その内容の吟味を行った。そして、討議民主主義理論のさらなる精緻化に向け、ハーバーマス(J.Habermas)の議論に立ち返りつつ、民主的討議の主体・対象・方法に基づく討議理論の分類とその妥当範囲に関する論文「公共的討議の場の複線化」を執筆し、単行書『日本の民主主義』の4章として発表した。ここでは、議論が錯綜している討議理論において、民主的討議を複線的に理解することが必要であると主張した。また、裁判員制度の設計をめぐる審議会・検討会や国会等での議論状況を精査し、裁判員法が制定されるまでの政策決定過程を詳細かつ客観的に叙述し、分析し、憲法学の観点から検討を行う論文「裁判員法の立法過程(2)」及び「同(3)」を紀要に投稿し、発表した。ここでは、裁判員法の立法過程で顕出された立法者意思に共和主義的討議民主主義理論と通底するものがあることを明らかになった。さらに、裁判員制度の意義を討議民主主義理論に基づき再構成すると、いかなる示唆が得られるかについて、外国語で論文を作成し、認知された国際学会であるThe 6th International Confere nce of the Japan Economic Policy Associationにおいて報告した(報告の採択の際に、学会企画委員会による審査あり)。ここでは、裁判員等選任手続における訴訟関係人の不選任請求権の行使に注目すべきであることが判明した。
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