2009年5月から裁判員裁判が実施される。しかし、裁判官と裁判員の判断基準のすり合わせ時期や方法とその効果について実証的研究は行われていない。そこで、前年度に実施した市民の「しろうと理論」についての成果に基づき、どの程度の人が、それぞれのしろうと理論をもっているかについて105名を対象に質問紙調査を行い、また、裁判員のしろうと理論が裁判官と異なった場合、どの時期にすりあわせるのがいいのかについて、すりあわせ時期を変えた2つの模擬評議体を設けて実験的に検討した。 質問紙調査の結果、どのような場合に、「疑わしきは被告人の利益に」の原則が適用されると考えているかの調査では、「一般的な基準」に照らして考える人についで、「被告人の発言や行為の中に意図がよく分からない場合」に、適用すると考えている人が多かった。しかし「決定的な証拠(「死ね」と叫びながら刺している)がない場合」には「疑わしきは被告人の利益に」を適用すべきと考える人も全体の1/5近くいた。 実験の結果、先に専門家の考えを表明した専門家先行群でも、裁判官の裁量では調整不能な法的限界を越えた主張がなされていた。このことは素人の考えを先行させた素人先行群でも、専門家・非専門家という2つの立場のどちらかの文脈だけに単純にのせて、議論することが困難であることを示すと考えられた。そのため、2つの異なる文脈の言葉をどのように繋ぐのか、その方法が模索される必要があると思われた。
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