平成19年度当初の計画では、高次の学力を教科横断的なカテゴリーとしてスタンダード化する方法、および、その指導と評価の方法に焦点化して、日米両国でのフィールドワークをふまえた研究を進めるとしていた。米国でのフィールドワークは行えなかったものの、国内外の学力論、能力論の成果を検討し、教科横断的能力のスタンダード化という課題を、現在のハイパー・メリトクラシー時代の学力研究における中心的な課題として位置づけ、「文化としての知的・社会的スキルの大衆化の論理と方法論を議論する」という研究の方向性を提起した。また、米中におけるスタンダード開発の理論と実践をふまえ、教科横断的能力のスタンダード化の限定条件((1)教科横断的能力は教科固有の認識と探究の方法の抽出の後に、教科間の共通性の発見を経て明らかになる、(2)社会的能力や自己調整能力のスタンダード化は、対象世界との対話に伴って付随的に要求される部分に、また、何らかの専門的知識の創出に関わる部分に限定すべき)も明らかにした。本年度はさらに、年度当初の計画どおり、次年度の米国での現地調査に向けて、スタンダードに基づく特徴的な教育改善システムを構築している州や学区の情報を収集した。結果、ネブラスカ州やCARE(Coalition for Authentic Reform in Education)による特徴的な取り組みの内実が明らかとなった。そこで、これらの事例の分析を通じて、スタンダードとアカウンタビリティを民主的な教育改革の力としていくための条件(実質的な学力向上と持続的な学校改善を目的に据え、教師の専門的判断を信頼するローカルなシステムを基本としつつ、教師・学区・州・国家、さらには、保護者や地域住民が固有の役割と責任を分有しながら、組織的に目的の実現を目指す)を仮説的に提起した。以上の研究成果を研究論文や学会発表などを通じて発表した。
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